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東京高等裁判所 昭和24年(新を)173号 判決

控訴人 被告人 赤羽正義

弁護人 吾妻源二郎

検察官 鈴木正二関與

主文

原判決を破棄する。

本件を長野地方裁判所松本支部に移送する。

理由

本件控訴の趣意は末尾に添付してある弁護人吾妻源二郎作成名義控訴趣意書と題する書面記載の通りである。(但し論旨第一点以外の論旨は省略する)

これに対し当裁判所は左の如く判断する。

論旨第一点について、

記録によると論旨に指摘する如く原審は被告人に対する昭和二十三年十二月二十三日附公判請求書のいわゆる旧事件と昭和二十四年二月二十六日附追起訴状のいわゆる新事件とを併合審理し一箇の判決を以て両事件を処理し併合罪の規定を適用して一個の刑を言渡している。よつてその当否を勘案するに旧事件は旧刑事訴訟法に従つて又新事件は新刑事訴訟法に従つて審判するものであるが両訴訟法は非常にその性格を異にし第一審においてもその訴訟手続は色々重要な点に差異があるがこの差異は特に上訴審において甚だしく旧訴訟法は三審制で一審、二審共に事実審三審が法律審となつているのに反し新訴訟法は原則として二審制で一審が事実審二審は事実及法律審となつており例外として極めて制限された範囲内で法律審たる第三審が許されている。

更に右第二審の性格を比較すると旧訴訟法においては控訴審判は完全なる覆審でいわゆる第二ノ第一審で第一審判決の当否を審査するのでなく自己が相当と思惟する裁判を更に第一審と同様になすのであるが新訴訟法においては審判はいわゆる事後審で第一審の弁論終結のときに遡つてみて原判決の当否を審査し原判決を相当とすれば控訴を棄却し不当とすればこれを破棄し原則として事件を原審に差戻し又は他に移送し例外として自判するのであるかこの場合でも審理は続審であり覆審ではない。斯様に性格が異るばかりでなく上訴期間も両者は異るのであるから新旧事件を併合審理して一箇の判決で処理し一個の主文を言渡したのでは当事者は何れの控訴期間に従うべきかまた量刑不当に関する控訴趣意の如きはこれ如何にすべきかその適従するところを知らない。裁判所においても旧訴の事件は覆審新訴の事件は事後審査審と区別して審判することができない。要するに新旧事件を併合審判しては爾後収拾の付かない結果となるので両事件の併合審判は法の許さざるところと解するのが相当である。併合罪は法定の加重をなした一個の刑を言渡すべき旨刑法は規定しているがこれは同一手続で審判せられることを前提としているもので別個の裁判所で審判されるとか時を異にして審判せられるとかの場合は各罪について別々に刑を言渡すの外なくそれで差支ないのである。このことは訴訟手続上併合審判が許されないときも同様である。

しかれば原審が前記の如く新旧両事件を併合審判して一個の刑を言渡したのは違法でこの違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから論旨は理由があり原判決は破棄する以上爾余の論旨に対する判断は不必要であるから省略し刑事訴訟法第三百九十七條、第三百七十九條第四百條本文の規定によつて主文の如く判決する。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 野本泰)

控訴趣意書

第一点原判決は其の訴訟手続に法令の違反があり、其の違反が判決に影響を及ぼすこと明かなるを以て破棄を免れないものである。

原審昭和二十四年二月二十八日附公判調書に依れば「裁判官は被告人に対し裁判の審理上、昭和二十三年十二月三日附公判請求書に関しては、旧刑事訴訟法に基き昭和二十四年二月二十六日附追起訴状に関しては新刑事訴訟法に基き審理する旨を告げ」旧刑事訴訟法に依るべき事件と新刑事訴訟法に依るべき事件とを併合審理し且つ其の判決に於ては右両事件を混合一体化し其の主文を同一にしたるのみならず、事実の認定、証拠説明及び法令の適用も同一にし、同一判決書に作成せられたること記録上明白である。

然れ共昭和二十三年法律第二百四十九号刑事訴訟法施行法第二條に依れば「新法施行前に公訴の提起があつた事件については、新法施行後もなお旧法及び應急措置法による」と規定しありて新法施行後に公訴の提起ありたる事件と区別し、旧刑訴に依り特別に取扱うべきことを明かにされている。而して旧刑訴に依る事件と新刑訴に依る事件とは全然其の性格手続を異にして居るのみでなく、(1) 審級制度に大なる差異を生じ旧法が控訴審を以て覆審としていたのに対して新法は控訴審を以て第一審判決の当否を審査批判する所謂爾後審査の審級とし、原判決に不当があれば、それを破棄して原則として原審に差戻すこととし(第四〇〇條)上告審についても、新旧刑訴に夫々差異のあることは申し上げるまでもない事柄である。(2) 又控訴の提起期日にも差異あり、旧法に依る事件については七日(第三九五條)新法に於ては十四日(第三七三條)、(3) 又控訴申立の理由(新第三八四條)、控訴趣意書(新第三七六條乃至第三八三條)の要不要等控訴審の性格、手続にも大なる変更を來たしているものである。

故に原審判決の如く、新旧二個の事件を併合審理し、之を同一判決文に作成せられたることは、前記刑事訴訟法施行法第二條の精神に違反するのみでなく、其の手続殊に控訴上告の手続上全く動きのとれない結果を招來したるものである。のみならず原判決は前叙の如き法令違反に加えて左記の如き違法を侵しているのである。即ち、原判決理由第一の一、二の事実(旧刑訴法に依るべき事件)に対し、其の主文に於て新刑訴法第三百四十八條第一項を適用し罰金を仮りに納付することを命じている。斯る違法は許容せられるべくもなく又右事実につき旧刑訴第三百六十條に依る証拠説明も加えられてはいない。

要するに原判決は以上の事由に依り、冐頭掲記の違法あること明白であるから破棄を免れないものと信ずる。

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